12月2日、9日、16日。三週連続で日曜日の東京をコンデジを携えて、歩いてみました。
前回までの奈良大和路散歩で、勝手に命名して盛り上がっております「本歌撮り」。
初冬の街並みに留まる秋の名残をテーマに、元となる和歌を求めて、萬葉集、古今和歌集、新古今と時代の流れに沿ってじっくり読み込むと、いろいろなイメージが湧くものです。
それを写真で表現してみようというのが「本歌撮り」。
街の新陳代謝が激しい東都を歩きながら、現代のイルミネーションにも「秋の停泊地」を探して歩きます。
所載歌集:古今和歌集、百人一首
春道列樹
山川に風のかけたるしがらみは
流れもあへぬ紅葉なりけり
春道列樹(はるみちのつらき)。今どきの出版界でいえば、ライトノベルの作家名かと勘違いしそうですが、平安時代中期の歌人です。
詳しい生涯について、ほとんど記録が残されていませんが、官吏、役人であったことは分かっています。
古今集に三首、後撰集に二首と掛詞や縁語を使った歌が残されています。この作品は百人一首に採られたことで千年後も人々のこころに迫るものになりましたが、そうでなければ歴史の深い闇に埋没していたかもしれません。
この作品ですが、山川は「やまがわ」と発音します。山の中の川という意味になります。「やまかわ」と発音すると「山と川」という意味になるので、注意が必要です。
「しがらみ」とは柵のことで、川の流れを堰き止めるために杭を打ち並べ、そこに木の枝や竹を横にかけ結びつけたものを言います。もちろんここでいう「しがらみ」とは実際の柵ではありません。
本来なら人間が掛けるはずの柵を、風が紅葉を吹き散らし、風が柵を掛けたと詠み手である春道列樹は見立てます。
川面の紅葉が溜まった場所を柵に見立て、「風のかけたる」と擬人化して、自然と人間の営為がオーバーラップし、流れきらずに溜まった紅葉という自然現象が特別な意味を持つように詠います。
自然が人間社会、文化に引き寄せられて、ありのままの自然とは違った風貌を浮かび上がらせる効果を狙っています。
「風のかけたるしがらみ」。
歌人、春道列樹はこの句で、人が掛けるのではなく、風が仕掛ける「しがらみ」とは何か?という謎かけをしています。
受け取る側、読者のこころのなかで風の掛けた「しがらみ」が美的な存在、風雅に変容する。
敢えて千年後に生きる人間が現代的な深読みをすれば、結んで堰き止める柵に人間の絆といったようなことまで読み込める。これが「見立て」の技法、和歌の力だと思うのです。
和歌の力に引き寄せられ、歌人の見立てに触発されながら、変貌を遂げ続ける東都に秋の名残を感じながら歩きます。
まずは菅原道真公を祀る「湯島天神」から。
江戸総鎮守「神田明神」公式サイト
晩秋の神田明神
正式名称は「神田神社」。平安時代、武人の先駆け、東国のヒーロー平将門公を祀っています。
東国の開発領主たちや当時の民衆にとっては、苦労して開墾した土地から豊かな実りを得るものの受領の苛政、重税に苦しめられ、その思いを酌んで立ち上がった男気あふれる武人だったのです。
神田明神随神門
昭和天皇御即位50年の記念事業として新たに再建された総檜・入母屋造、二層建て・屋根は銅板瓦棒葺の随神門です。
松下幸之助氏奉納で、外側正面に隨神像を配し、右は豊磐間戸神、左は櫛磐間戸神を安置。この像は熊本城域内の樹齢500年の楠で、加藤清正公お手植えと伝えられているものを使用しています。一木造、長崎平和祈念像制作者として有名な北村西望氏の監修によります。
将門塚
さまざまな伝説が残る平将門です。
伝説由来は写真をクリックして、読んでみてください。
歴史は多角的に捉えることから始まる。一方の見方だけでは分からないことも多いものですし。
平将門公に江戸、東京の平和を祈ります。
丸の内、イルミネーション。
まだ葉が残る木々の梢と電飾をメモ。東京の初冬を飾るイルミネーションです。
ミレナリオの頃は派手さと回廊のようなイルミネーションに目を奪われましたが、節電モードの現在は街の洗練度合いもグッとアップして、オシャレです。
ティータイムもクリスマスモードで。
今週のお題も「クリスマス」ですね。ケーキの断面が顔に見えたので、一枚(笑)。
追記
東京スカイツリー、クリスマスライトアップ
押上、飛木稲荷神社の焼け銀杏(秋)
今年三月にご紹介した飛木稲荷神社。東京大空襲から街を守って、焼夷弾によって焼かれた銀杏、67年後の紅葉です。
東京スカイツリーから歩いてすぐの場所にあります。地元では再生への希望と祈りを捧げる公孫樹です。
春道列樹
昨日といひ 今日とくらして あすか川
流れてはやき 月日なりけり
昨日はこんな風だった、今日はこれをしなくちゃ。そんな毎日を暮らして、明日にはこんなことが待っている(飛鳥川と掛けています)。
月日の流れは速く、あっという間の一年だった。春道列樹が詠ったように、人間はきっとこれからもこの感懐を繰り返し繰り返し生きていくのでしょう。
それでは本日はこの辺で、良い週末をお過ごしください。