前篇の日本三奇橋・猿橋に引き続き、「青春18きっぷ」を利用する各駅停車の旅、後編をお届けします。
AM9:23 猿橋駅出発
山梨県大月市猿橋駅から中央本線に乗り、果物王国山梨県の桃やぶどう、梨の果樹園や美しい山河などの光景が車窓の彼方に広がり、停車する各駅の観光案内を見ていると、興味深い史跡、神社仏閣の案内に次々と旅のアイディアが浮かんできます。
旅の途中で次回のプランを練るのもまた楽しからずや、ですね。
AM9:55 塩山駅に到着(山梨県甲州市)
ここで特急の通過待ちで停車。雨も一瞬止んだので、数分間でしたが、塩山の空気を味わい、駅のホームにある石碑をメモします。
日本最古の日の丸
現存する最古の日章旗は山梨県甲州市(旧塩山市)にある臨済宗妙心寺派の古刹、裂石山雲峰寺のものだという伝承があります。
天喜4年(1056)に源頼義が後冷泉天皇より下賜され、源頼義三男の新羅三郎義光から武田家に伝わったものだそうです。
義光の系譜に連なる甲斐源氏宗家の甲斐武田家の家宝として代々伝えられてきた「御旗」は古文書『甲斐国志』では「長さ六尺四布」と記載されています。
ちなみに四布(よの)とは通常布の幅が並幅4枚分あることをいいます。時代によってその寸法解釈には違いがありますことを申し添えておきます。
現存するものは約1/4が欠損していますが、雲峰寺の宝物殿で展示されていますので閲覧可能です。
再び中央本線に乗り込み、小淵沢駅に到着するころには西から東へ雨雲が次々と激しく流れ、ザーッと音を立てて降りはじめました。
AM11:04 小淵沢駅到着
雨に濡れないよう乗り換えを急ぎます。
AM11:19 山梨県北杜市の小淵沢駅から小海線へ
停車駅の数はちょうど30、約2時間20分の列車旅、スタートです。
標高886.7mの小淵沢駅から八ヶ岳高原を駆け抜ける小海線。
降り出した雨に煙る墨絵のような車窓からの眺めもまた良きかなと一枚。
晴れた日に再訪すれば、高原の輝きを堪能できることでしょう。
周囲を見渡すと御茶ノ水や八王子でお見かけした「青春18きっぷ」利用の方々もどうやら小海線がお目当てだったらしく、かなりの数が乗り込み、活気あふれる車内です。
清里駅に到着すると、夏の高原を旅する観光客の多くが下車したあと、小海線は「空にいちばん近い」駅ことJRの駅舎のなかで日本一の標高にある野辺山駅へ。
土砂降りの雨でしたが、それもまた旅の深い味わいのひとつ。
しっかり標柱をメモします。
野辺山エリアといえば、ブランド野菜として、また高収益農業経営のお手本として、メディアでも多数取り上げられている川上村のレタスが有名です。高原野菜の代表としてレタスの栽培面積・生産量・出荷量は日本一です。
雨に煙る高原を走る小海線。
高原の自然とさまざまな歴史をたっぷり味わうことが出来る小海線。その人気の高さはDVDや書籍の刊行点数、雑誌などの特集が組まれる数の多さにも表れています。
佐久平駅に近づくころには雨も小降りになり、観光客でいっぱいだった小海線前半の車内とは異なり、生活インフラとして利用している地元の方々の姿が増えてきます。
PM13:29 小諸駅到着
小諸駅到着後も雨が降っていたので、まずは腹ごしらえ(笑)、ちょっと遅めのお昼を信州そばの名店で。
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胡桃おはぎも絶品でしたが、食欲爆発で写真を撮るのを忘れました(苦笑)。
詳しくは食べログでご確認ください(笑)。
気温23℃、湿度92%、真夏日、熱帯夜続きの東京の夏に慣れたカラダにはひんやりと心地よい午後でした。
雨は降ったり止んだりでしたが、お天気も徐々に回復へと向かう、そんな雰囲気を感じながら小諸城址懐古園へ向かいます。
武田信玄の軍師としても名高い山本勘助が信濃を治める重要拠点として小諸城を大城にしますが、その後、世にいう下剋上・戦国の世から天下統一へと向かう中、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康という三傑に仕えた武将、仙石秀久によって小諸は城下町として整備されていきます。
小諸城址懐古園
三の門
元和元年(1615)、当時の城主仙石秀久によって創建されました。
仙石秀久といえば、築城の名手としても有名な戦国武将です。
美濃国に生まれ、主君として仕えた斎藤龍興が織田信長との稲葉山城の戦いに敗れて落ち延びた後、織田信長に勇敢な立ち居振る舞いと凛々しい風貌を気に入られ、信長に仕えることになります。
天正10年(1582年)6月、織田信長が本能寺の変で明智光秀の謀反により討たれると、羽柴秀吉の備中高松城攻めからの中国大返し、山崎の戦いと戦乱の世は情勢が大きく動くなか、仙石秀久は淡路で明智光秀に与した武将・豪族たちを討伐する任にあたり、淡路平定に貢献します。
その後、仙石秀久は四国平定、瀬戸内海における制海権獲得などに活躍し、天正11年には淡路・洲本城主五万石、天正13年には四国攻めの功により讃岐一国を与えられ、当初は宇多津にあった聖通寺山城を居城とし、次いで讃岐高松城の城主となります。
豊臣秀吉家臣団では最も早く大名に出世し、讃岐高松の地で10万石を与えられます。
ところが、天正14年(1586)豊臣秀吉の九州征伐の最中、豊後・戸次川の戦いでの独断専行により、島津軍に大敗を喫し、軍令違反による惨敗の責任を取らされ、領地を没収されるという憂き目にもあいます。
その四年後、天正18年(1590)仙石秀久は秀吉の小田原征伐に「無」の馬印を掲げて馳せ参じます。
そこで徳川家康軍に加わり、不屈の闘志をもって、戦功をたて、再び秀吉に認められ、五万石の小諸城主として返り咲くこととなりました。
関ヶ原の戦い以降、徳川幕府の成立後は小諸の地に所領を安堵され、信濃小諸藩の初代藩主になった仙石秀久の統治下で二の丸・黒門・大手門などが整備されました。
懐古園は白鶴城や酔月城とも呼ばれた小諸城の跡で、三の門には徳川家達(いえさと)公の筆による「懐古園」の大額が掛かっています。
小諸城はかなり珍しい城下町より低い土地に造られた穴城で、浅間山の火山灰で出来ている谷と丘を利用しています。水を用いず、崩れやすい断崖を上手く利用した攻めにくく守りやすい堅固な要塞です。
懐古神社
まずは恒例バーチャル参拝をどうぞ。
小諸城は多くの文人墨客に愛された場所だけあって、詩情を刺激する豊かな自然と城下町の佇まいには歴史を感じる風情もあり、園内には当地所縁の文人の歌碑も建立されています。
島崎藤村
島崎藤村「初恋」
まだあげ初(そ)めし前髪の
林檎のもとに見えしとき
前にさしたる花櫛(はなぐし)の
花ある君と思ひけり
やさしく白き手をのべて
林檎をわれにあたへしは
薄紅(うすくれない)の秋の実に
人こひ初めし はじめなり
わがこゝろなきためいきの
その髪の毛にかゝるとき
たのしき恋の盃を
君が情に酌みしかな
林檎畑の樹(こ)の下に
おのづからなる細道は
誰(た)が踏みそめし かたみぞと
問ひたまふこそこひしけれ
当時の若者たちを酔わせた五七調のリズムは、平成の世になり、齢五十の坂を越えた身にも、なお甘美に響きます。
水の手展望台からは眼下に千曲川と信州の美しい山並みが見えるはず。
雨に曇り、モノトーンの墨絵のような世界が広がっておりましたが…、
一瞬、山並みの彼方に視界が開け、美しい光景が(涙)。
悪天候から好天に変わる瞬間は自然を相手にする風景写真撮影にとって、とても楽しくエキサイティングな時間ですが、亡き母のおかげでしょうか、美しい光景に出会うことが出来ました。
降ったり止んだり、雨の懐古園を二周し、
併設されている小諸動物園に。
ちなみに懐古園の入園料は以下の通り二パターンあります。
- 入園料:500円 小中学生200円
- 藤村記念館、小山敬三美術館、郷土博物館、徴古館、動物園、小諸義塾記念館
- 散策券:300円 小中学生100円
- 園内散策、動物園
園内散策と動物園のみなら大人300円という設定はリーズナブルですね。
園内に植えられた花々も雨の日ならではの風情が。
雨の懐古園をたっぷり散策したあとは、旧城下町、北国街道方面へ。
小諸のダリアは雨に濡れ、初々しい輝きです。
小諸城大手門をくぐり、
ガガイモの花をメモし、
ふたたび小諸駅へ戻ります。
駅のポスターは旅情に溢れ、また新たに信濃路を旅する意欲を心地よく刺激してくれます。
ここからは別途料金(470円)を払い、しなの鉄道に乗り、軽井沢へ。
しなの鉄道の車窓からの眺めも良いですね、ボーっと眺めているとあっという間に軽井沢です。
PM17:20 軽井沢駅到着
さすが避暑地。気温16℃と涼しいのを通り越して、ちょっと寒いです。
街を歩く人々は秋の装い。Tシャツ、短パンで軽快に歩くオッサンは軽井沢の夕景を狙って、散策開始。
西の空では一瞬、光が差し、
反対側の山は煙っていました。
この後、40分ほど散策しましたが、突然雨も強くなり、あたりは煙り、みるみる暗くなり断念。
青春18きっぷは利用できませんが、別途料金を払いJRバスに乗り、峠の釜めしで有名な横川駅へ。
横川駅からはふたたび「青春18きっぷ」利用で、高崎へと向かい、高崎駅で快速アーバンに乗り、都内へという行程でした。
再開発が進み、すっかり新しい北への玄関口として整備が進んできた上野駅経由で帰ります。
AM22:45 帰宅
全行程18時間15分の日帰り旅は無事終了です。
通常料金の半額以下(60%OFF)で楽しめた「青春18きっぷ」を利用した旅。
ルールを知り、注意点を理解すれば、アイディア次第でいろいろな楽しみ方が出来ます。
時刻表や路線図片手に計画の段階からさまざまな楽しみを味わい、発見の宝庫ともいえるおトクな旅はいかがでしょうか。
自ら旅のプランを設計し、実際の行動計画に組み上げる「意欲」と動き回る「元気」があれば、たっぷり楽しめます。それではまた。
本日のBGM
追記:信濃路をおトクに旅する乗車券情報<随時更新中!2019年8月3日改稿>
いろいろあります、お得な乗車券。長野県(信州・信濃路)を旅する計画を立てるときに、ぜひ参考にしてみてください。
- JR東日本 長野支社(おトクなきっぷ)
https://www.jreast.co.jp/nagano/tickets/main.html
- JR東海(信濃路フリーきっぷ)
https://railway.jr-central.co.jp/tickets/shinanoji-free/
- しなの鉄道
- 長野電鉄株式会社(長電フリー乗車券)