万葉集の魅力
「日本人のこころのふるさと」と形容されるわが国現存最古の歌集、萬葉集。
七世紀から八世紀にかけて、およそ150年程度の歳月を掛けて編纂された全20巻にも及ぶ歌集です。
萬葉集にはさまざまな階層の人々が自らの思いを託した4,500首を超える歌が収められています。
日本文学の宝でもある、時代順に選ばれた和歌に接すると、万葉の時代を生きた人々の切実な思いや力強いエネルギーを感じ取ることができます。
権力をめぐる争い、闘いに敗れたものの哀切、
妻子をはじめとする家族愛、
身を引き裂かれるような悲しい別れ、
故郷を離れることになった人が詠む望郷の念、
忍ぶ恋、清らかな恋心、
思うに任せぬ現実に傷つきやすい人間の繊細な部分が生々しくも、切々と語られることもあります。
喜怒哀楽、愛別離苦、そうした人間の普遍的で粒立った感情や
万葉人が表現した自然への畏怖、四季折々に感じる情感もしみじみと味わえるのです。
万葉歌を味わっているとさまざまな気象現象、さらには季節の風や月の姿、また雄大な山河の様子、植物や花の生命・存在といった自然と人間のこころとの距離が近いことが分かります。
自然と共に暮らし、畏れ、敬いながら、季節の移り変わりを万葉人は敏感かつ豊かに感じ取って、歌に詠んでいます。
こうした万葉の命を千数百年後の世に伝えているのは2,100余りの作者未詳の歌です。
柿本人麻呂、大伴家持、山上憶良、山部赤人といった代表的な万葉の歌人の作品だけでなく、数多くの作者未詳歌があたかも合唱のように、大地から湧き上がるエネルギーのように力強く、現代人のこころに問いかけてくる気さえします。
今日はその萬葉集に出てくる植物を集めて、植栽し見せてくれる全国に数多く存在する万葉植物園についてご紹介します。
万葉植物園(萬葉植物園)とは?
全国に数多く開設されている万葉植物園のなかで、奈良県にある春日大社に併設されている春日大社神苑・萬葉植物園が昭和七年(1932)開園と、もっとも歴史が古く、規模も大きく、9,000坪の園内に300種類の植物が植えられています。
萬葉集に詠まれた植物にはそれぞれに万葉名があり、その多くは食用・薬用・衣料・染料、さらには建築・工芸の材料など、実用的な用途を持つものばかりです。その中には現代名と異なるもの、また一つの万葉名であっても、現代では多数の該当する植物説があります。万葉集に登場する植物
またその万葉名の解釈、識別・分類をめぐって、いまもなお数多くの議論が存在します。それゆえ、こうした定義・解釈の定まっていない植物も含め、約300種類の植物が栽培されています。
ききょう
その一例は桔梗(ききょう)です。いまでいう「朝顔」は万葉の時代には渡来しておらず、万葉名の「あさがほ」はキキョウが有力だとする説です。
朝顔は 朝露負ひて 咲くと云へど
夕陰にこそ 咲きまさりけれ
(作者未詳:巻10・2104)
その根拠は現在でいうところの「朝顔」は平安時代にはじめて薬用として渡来したもので、当時、野に自生してはいなかったこと。さらに日本で最も古い字典である『新撰字鏡』に「桔梗 加良久波 又云 阿佐加保」とあり、キキョウの古い呼び名に「あさがほ」があったと記されていることに因ります。
それでは万葉歌に詠まれた植物を少しご紹介しましょう。和歌の表記は岩波ワイド文庫、新訂 新訓万葉集(佐佐木信綱編)に準拠しています。
葛の花、萩の花
現在全国各地で一般公開され、運営・管理されている万葉植物園の多くでは、春日大社神苑・萬葉植物園をお手本にして、100種から150種程度の草木を鑑賞することができます。眞くず原 なびく秋風 吹くごとに
阿太の大野の 萩の花散る
(作者未詳:巻10・2096)
東京では以前ご紹介した板橋区赤塚にある万葉・薬用園や
国分寺市にある万葉植物園が知られていますが、今回は千葉県市川市にある万葉植物園をご紹介します。
市川市萬葉植物園
http://www.city.ichikawa.lg.jp/gre04/1511000002.html
開設面積は3,387平方メートル(約1,024坪)と、春日大社神苑・萬葉植物園と比較すれば、小ぶりではありますが、静かで落ち着いた環境のなか万葉植物と親しむことが出来ます。
それでは千葉県市川市万葉植物園を中心に今回の写真散歩を始めましょう。
市川市萬葉植物園施設概要
- 所在地:市川市大野町2−1857
- 電話:047−337−9866
- 交 通:JR武蔵野線市川大野駅から徒歩3分
- 駐車場:なし
- 入園料:無料
- 開園時間: 4月〜10月/午前9時30分〜午後4時30分 11月〜3月/午前9時30分〜午後4時00分
- 休園日:毎週月曜日(ただし、月曜日が祝祭日の場合は開園日とし、翌日を休園日とする)と 年末年始(12月28日〜1月4日)
市川市写真散歩
姥山貝塚
ここから比較的近い距離にある姥山貝塚へ向かいます。
広々とした公園として利用されていますが、発掘を担当した方や組織にちなんでアルファベットの頭文字を地点名にした解説ボードもメモします。
彼岸過ぎでも真夏日の陽気に、しっかり水分補給しながら、さらに歩を進め、船橋法典へ。
化石海水って何?と、
化石海水型温泉という耳慣れない言葉のこんな幟に興味津々。
「なるほどぉ〜、クアハウスなのね」と納得し、続々と入っていく車や人の多さに驚きつつ、先へ進みます。
中山競馬場
追記(2019年5月26日)千葉県市川市の万葉集ゆかりの地を歩く。
山部赤人や高橋虫麻呂をはじめとする万葉歌人のこころをとらえ、1,400年以上数多くの文人、歴史家を中心に悲劇のヒロインとして表現の題材に取り上げられてきた「手児奈」。手児奈伝説についてはこちらの記事をご覧ください。