夫婦写真散歩のススメ

歩く速さで、街の新陳代謝や季節の移り変わりをゆっくり、丁寧に味わってみましょう。

殿ヶ谷戸庭園(東京都国分寺市)

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武蔵野段丘、南縁の「ハケ」と呼ばれる国分寺崖線を利用した回遊式林泉庭園、殿ヶ谷戸庭園。

JR国分寺駅から徒歩数分の距離にあり、崖の上に広がる芝生地、孟宗竹が美しい竹の小径、鬱蒼とした緑に囲まれた崖下の湧水地など、園内をゆっくり歩いていくと、崖上の洋風庭園と芝生地、崖線傾斜面に生い茂る樹木、さらには崖下では湧水地とその都度景観がガラリと一変する和洋折衷の庭園の趣きを楽しめる名園です。

国指定名勝・殿ヶ谷戸庭園

今回は東京都国分寺市にある国指定名勝・殿ヶ谷戸庭園をご紹介します。

殿ヶ谷戸庭園の歴史


江口定條は三菱合資会社・本社営業部長時代の大正二年(1913)から二年の歳月を掛け、別宅を建て、豊富な湧水を用いた池を辿る自然の魅力溢れる庭をこの地に造ります。

これが現在の殿ヶ谷戸庭園のはじまりです。

港区白金台の八芳園や赤坂の高橋是清翁記念公園の意匠、作庭を手掛けた庭師、仙石荘太郎が江口家別邸と武蔵野の地形を巧みに活かした作庭を担当したと伝えられています。

江口はこれを朱子全書や白楽天の漢詩に出典をみることができる「よろしきに従う=随宜」という意味の「ずいぎえん」と命名し、別邸とします。

江口定條の人生

江口定條は元治二年・慶応元年(1865)幕末の土佐に生まれ、東京高等商業学校=現在の一橋大学を出たあと、同校の教諭になります。

明治24年(1891)に転職し、三菱合資会社に入社します。大正11年(1922)に57歳で退社するまで三菱合資会社に31年間奉職し、本社総理事まで務めます。

三菱財閥三代目の岩崎久彌と同郷の土佐出身で、生年も同じと、三菱財閥にとって重要な人物であったといいます。

三菱合資会社退社後、1925年には江口の母校、一橋大学の後援団体、如水会の初代理事長に就任し、その後南満州鉄道副総裁、貴族院議員などを務めました。

その江口から昭和4年(1929)当時三菱合資会社の副社長に就任した岩崎彦彌太がこの別荘を買い取り、「国分寺の家」と呼び、親しんだといいます。

岩崎彦彌太と津田鑿(つだ さく)

購入後しばらくは江口家の別邸と庭をそのまま使用していたと伝えられていますが、昭和九年(1934)に現在の殿ヶ谷戸庭園にも残る津田鑿(つだ さく)設計による庭園建築の紅葉亭を新築し、園内を整備し、回遊式庭園を完成させました。

庭園の段丘上には芝生地が広がる洋風庭園があり、崖線下には湧水の次郎弁天池を中心とした和風庭園と文字通り和洋折衷の回遊式林泉庭園には季節の花木が植えられ、四季折々訪れる人の目を和ませてくれます。

殿ヶ谷戸庭園、園内花木コレクション2013秋






次郎弁天池

開発が進んだ国分寺駅のすぐそばにありながら、この緑溢れる空間は貴重です。



多くの来園者の心を癒し、和ませるこの見事な庭園にも実は廃園の危機がありました。

殿ヶ谷戸庭園廃園の危機

東京五輪を二年後に控えた昭和37年(1962)に「殿ヶ谷戸公園」として都市計画公園の決定がなされますが、昭和47年(1972)には都市計画公園の指定を解除して、この地域を商業地域に指定する用途地域改正素案が出されます。

昭和40年代後半は高度成長期の真っ只中、経済的な繁栄こそが豊かさの象徴という時代の大きな流れがありました。

住民の反対運動

しかし国分寺駅南側を商店街化するという大規模開発の計画には住民の反対運動が起こります。

東京の戦後復興は現在では一言で「高度成長」と語られることが多くなりましたが、それは世界史上きわめて稀な急成長を遂げた奇跡のような出来事でありました。

しかし、その一方、広域優先、公共主導の「まちづくり」は多くの自然環境を破壊し、さまざまな歪みをもたらすという反作用も顕著になっていたのも事実です。

こうした高度成長期における都市整備の限界を指摘する声やさまざまな公害問題、自然環境保全への意識の高まりを見せるなか、この武蔵野の面影を色濃く残す豊かな自然環境を残したいという住民運動が精力的に行われます。

その結果、昭和49年(1979)東京都が公園用地として買収し、整備がさらに進められ、有料庭園として開園されることになったのです。美濃部亮吉東京都知事二期目のことでした。

いまこうして美しい園内を散策できるのも、住民運動のおかげ、先人の努力に感謝しつつ、園内を歩いてみましょう。

殿ヶ谷戸庭園園内散策

紅葉亭周辺


孟宗竹(竹の小径)


馬頭観音




今回の訪問は11月初旬でしたので、園内の紅葉はまだ色づきはじめ。
しかも暗い曇天とあいにくの空模様。
そこでこんな風に撮ってみました。
スローシャッターに設定して、カメラを一定方向に振って撮影する、名付けて「振り微写」(苦笑)です。
ピントの芯を微かに残しながら、光跡を絵画調に写しだそうとするココロミです。

振り微写三題




手振れ補正の限界など、カメラのクセを熟知して、この方法で遊んでみると、予想外の画像がモノにできることもあります。

湧水地




殿ヶ谷戸庭園の紅葉は例年11月下旬から12月初旬までが見頃になると予想されます。

この日はちょっと足を立川まで伸ばして、都内最大の公園、総面積180万平方メートルという昭和記念公園に。
閉園間際の一時間写真散歩してみました。

昭和記念公園の秋


昭和記念公園、水辺の風景

振り微写バージョン

いよいよ来ました。東都の紅葉、最盛期。
しっかり歩いて、汗をかいて、ストレス解消。
そんな秋の写真散歩は防寒対策や案外この季節おろそかにしがちな水分補給もお忘れなく。
それではまた。