平安時代中期、源信(のちに恵心僧都と呼ばれる)という若き密教のスーパースターが誕生します。
9歳で比叡山からスカウトされるほどの秀才、13歳で出家し、15歳では時の帝、村上天皇の前で講義するほどの名誉を得、宮中の殿上人からも絶賛される存在となり、数々のご褒美の品を授かり、僧都の称号も得ます。
浄土仏教の思想 (第6巻) 新羅の浄土教 空也・良源・源信・良忍
- 作者: 章輝玉,石田瑞麿
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源信は大和国に一人暮らしするお母さんのもとに、親孝行のつもりでそのご褒美の品を送りました。しかし母親は「時の権力に取り入って世渡り上手になるために育てたのではない。仏門に入るということは名誉や財を追い求めるのではなく、真の求道者になるためだ」と、源信が送った品を送り返し、厳しく戒めます。
その後、源信は比叡山横川恵心院で念仏三昧の日々を送り、「往生要集」という浄土教の基礎を作った聖典ともいうべき書物を書き上げます。
- 作者: 源信,石田瑞麿
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その源信が書き上げた「往生要集」という書物には厭離穢土、欣求浄土という基本的特質が書かれています。この教え、考え方は平安時代の貴族、庶民に大きな影響を与えます。往生要集は鎌倉新仏教、親鸞の「浄土真宗」では公式の聖典にもなっています。
- 作者: 源信,石田瑞麿
- 出版社/メーカー: 岩波書店
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紫式部の源氏物語にも横川僧都=源信のことが書かれていたり、「厭離穢土欣求浄土」という言葉を徳川家康が馬印に用いたり、芥川龍之介の「地獄変」にも出てくるほど後々の世まで大きな影響を与えた仏教書です。
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- 作者: 芥川龍之介
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そんな高僧、源信(恵心僧都)が開いた庵が武蔵国豊島郡入江(現在の東京都中央区)にありました。この庵=万福庵に安置されている観世音と弁財天は源信(恵心僧都)の作と伝えられています。千年以上前のお話です。
文正元年(1466)に万福庵の周辺で悪い疫病が流行し、多くの島が点在した海辺の街、漁師町であったこのあたりの人々を苦しめます。そこで網師の翁が海上でかかった稲穂を持って、この万福庵を訪れ、数日間この庵で過ごします。ある夜、当時の万福庵の庵主が「夢」を見ます。長い前置きになりましたが、ここでようやく、はてな様のお告げ=今週のお題、夢の話につながります。
万福庵の庵主の枕元に恵心僧都がたち、網師の翁を稲荷大神として崇めれば、村の疫病は消滅すると告げたのだそうです。翁を「小網稲荷大明神」と称え、神社を創建し、日夜祈願を続けると村の悪疫は鎮まり、村人たちは歓喜したと現在に伝えられています。
この地の領主太田道灌もこのご神徳を聞き、土地を寄付して、小網山稲荷院万福寿寺と名付けます。江戸時代慶長年間には周辺地域が小網町と呼ばれ、小網神社を氏神と崇めます。明治時代の神仏分離令で小網稲荷神社として村社に指定されました。
小網神社はその御由緒から「強運厄除の神様」と崇められ、数々のご神徳に関するエピソードが現在までしっかり言い伝えられています。
大正12年の関東大震災のときに当時の宮司が社殿倒壊にもかかわらず、稲荷大神、弁財天のご神体を抱え、近くの新大橋に避難。「ご神体を伏して拝み、加護を願った」ことで大挙して避難してきた地元住民に混乱もなく、新大橋も落ちずに大勢の人が助かったという「避難記念碑」も現在まで残されています。
- 作者: 武村雅之
- 出版社/メーカー: 吉川弘文館
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昭和20年3月の東京大空襲の時も社殿を含む境内建物すべてが奇跡的に戦火を免れるなど、まさに強運厄除けの文字通り、日本橋地区唯一の木造檜作りの神社建築として現在に残っているのです。
平成の世になり、日本橋は開発が進み、狭い土地に押し込められるように立つ小網神社ですが、その由緒からパワースポットとして参拝に訪れる方も多く、繭玉のおみくじも珍しく、境内入り口に見られます。
それではお待たせしました、こころ静かに、バーチャル参拝をどうぞ!
5月28日には例大祭、6月30日には夏越の大祓(茅の輪くぐり)、そして11月28日にはどぶろく祭(新嘗祭)で賑わう小網神社。日本橋、人形町あたりを散策する際にぜひ訪れてみてください。