2009年民主党前原誠司国土交通大臣の八ッ場(やんば)ダム建設中止発言に揺れる群馬県長野原町川原湯地先。
名湯・川原湯温泉、新緑、紅葉の名所吾妻渓谷でも知られた地域だ。
吾妻渓谷入り口、国が指定した名勝が国策によって沈む運命とは何とも皮肉な話だと感じていた。
「自然を大切にしよう」のスローガンもむなしく響くと…。
少なくともこの夏までは…
冬枯れの渓谷に残る吾妻川紅葉スケッチ、
強酸性の水質(ph値は高く4以上)流れる水の色はソーダ水のようでもあり、
場所によってはエメラルドグリーン。
民主党政権樹立でクローズアップされた「八ッ場(やんば)ダム」問題で一気に知名度は全国区。
観光バスを仕立てて、ニュースの現場を訪れる観光客が急増したという。
近くには草津温泉もある長野原町、自民党衆議院議員、小渕優子氏、
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ダム建設の是非を議論したいという匿名の有志が集まり、
それに同行して欲しいという依頼があったからだ。
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そこで、私はとにかく現場を歩いてみよう、そんな提案をした。
ひたすら自分の足を使って歩いて、この街を愛し、生活を狂わされ続けてもなお、
この街に住み続けた地元の方々の話を真剣に聞いてみたかったのだ。
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先日の土曜日午後、JR川原湯温泉に到着。気温8℃。
吾妻川を挟んで対岸の光景。
生活再建のために用意された代替予定地打越地区の前を通る。
穏やかでのどかな土地に遠くから工事の音が響く。
地元の地図を眺め、まず工事現場へ向かう。
柔道家、嘉納治五郎氏も別荘を持っていた場所。
いまはその跡形もなく、看板だけが残る。
名湯、川原湯温泉街。
この温泉街のさらっとした泉質が好きで、自身通算3度目の訪問になる。
ダム建設でこの素晴らしい温泉が人工湖に沈むことが惜しまれると単純に思っていた。
10年以上前の訪問時は反対意見も多かったように記憶しているが
その後の経過で、コトはそう単純ではなくなっている。
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かつて訪れた不動の滝も見ることができない。
夕暮れ迫る時刻、坂道を上ったり、下ったり、しばらく歩くと橋梁工事現場が見えてきた。
国道や工事用に作られた道路では土曜日も工事車両の往来激しく、砂塵が舞う。
工事現場到着。
告知の立て看板も多く見られ、
現場で働く方々も礼儀正しく、難工事に挑む気概も感じられる。
気温4℃、工事車両の交通整理を担当される方も腰が低く、あたたかい人柄が伝わってくる好漢だった。
それにしても、橋梁の迫力は凄かった。
訪れる人々はその威容に感嘆の声をあげていた。素直な門外漢の反応であろう。
難工事に取り組む現場の熱意も感じられた。物事はスポットの当て方で如何様にも変化するものだ。
大型の工事車両の往来の激しい道から、国道を渡ろうとすると、
草津温泉へ向かうと思われる観光客の自家用車(県外ナンバーが多かった)で交通量は驚くほど多く、
交差点は信号待ちで渋滞していた。
のどかな土地柄に似つかわしくない交通量の国道を駆け足で渡り、
八ッ場ダムに関する広報活動を行う「やんば館」に歩を進めた。
やんば館前から橋梁工事現場をメモ。
やんば館入り口
1999年(平成11年)に開館して、入場者数は今年に入って急上昇30万人を突破した。
館内での説明も、訪問者=聞く側のこの問題に対する知見の深さ、量を見極め、空気を読み取り、
物見遊山な無責任な発言、質問にも真摯に対応し、本当に丁寧だ。頭が下がる思いがした。
新しい温泉街、ダム湖観光を何とか成功させようと広報活動に意欲を燃やしている姿に心打たれた。
街を二分した長年の反対運動、議論、国政、地方行政、首都圏を巻き込んで行われてきた交渉過程。
問題自体が複雑骨折しているかのようだ。
- 住民流出の問題、長期化する工事で代替予定地に住むメリットがない。
- この土地に住む人々が代替地を選ばず、故郷を離れざるを得なかった苦しみ。
- 家屋の解体が分別処理に関わるコスト、手間で費用の自己負担額が大きくなっていること。
- 代替地の土地取得に費やす個人負担金額が街中に土地を買うより高くなってしまっている。
- 新・川原湯温泉ストリート建設に関する期待と泉質の変化への懸念。
- ダムサイトの地盤が脆いのでは?いう懸念
- 吾妻川の水質が強酸性のため、石灰などで中和するコストがかかる。
- 草津をはじめ長野原町の水道料金は日本一高い。
- 上流の品木ダム、草津中和工場のおかげで、吾妻川の水質(ph値)は下がった。
- 環境団体と称する門外漢が独自の調査、机上の議論を仕掛け、地元民不在になったこと。
- ダムの治水、利水、水質、地盤に関する調査データを解釈する際、恣意や意図的な結論への誘導(強弁)も多い。
- ダム建設、JRの線路移転、道路建設に関する利権(政官業の癒着)。
結論が長期化すればするほど、生活再建もより困難になることは明らかではないのか?
永田町、東京のメディアで語られる議論の長期化で中途半端な状態で放置されることへの懸念は大きい。
政争の具や売名行為、イデオロギー主張の場に「八ッ場ダム」建設問題を利用することは犯罪に等しいと感じる。
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安易にこれは国の犯罪と言い放つだけでは問題は何も変わらない。
国土交通省八ッ場ダム工事事務所公式サイト
(http://www.ktr.mlit.go.jp/yanba/index_nn4.htm)
wikipediaの「八ッ場ダム」の項目は一見の価値あり、インターネットの集合知はあなどれない、
八ッ場ダムの課題問題がよく整理されているとの地元の声も聞いた。
さまざまな議論、交渉を経て、苦渋の決断がなされ、ダム建設に向け走り出し、
1949年から街を二分する議論に翻弄され続けた地元の方々は結論を得、
いよいよ新しい生活へと歩みだすはずが…
いまさらながら「建設中止」。
しかも今回の選挙期間中、民主党議員がこの地を訪れ、
地元の方々と話し合う姿は全くなかったとのことだった。
小選挙区=地元の問題について、地元の民意は「小渕優子」氏を選んだのである。
「建設中止」も根回し一切なし。前原誠司国土交通大臣の発言、
その決定のプロセスにも疑問を感じざる得ない、怒りすら覚えるとのこと。
一方、今夏の衆議院選挙で吾妻町の27%が比例区で「民主党」に投票した事実もある。
そこで地元の方によくよく聞いて見ると住民の皆さんは地域の代表は「小渕優子」さん、
国政レベル=比例区では政党としての自民党に失望し、悩んだ末、政権交代に期待した。
しかし民主党マニフェストのすべてに賛成したわけではない。(これは多くの国民も同様であろう)
特に地域の最大の問題、八ッ場ダム中止には「反対」なのだろうか?
今回の訪問でお会いしたすべての人に聞いてみた。
地元の声は、ダム建設中止には反対という声が多い。これは事実だ。
選挙後ダム建設推進の署名活動が熱心に行われ、その数は5万人を越えた。
一方少数ではあるが、いまだに反対姿勢を崩さない地権者の意見も尊重されてしかるべきだと思う。
いま現在、解決への道筋すら見出せないこの問題の複雑さに絶句した。
前原誠司国土交通大臣をはじめ、政治家、官僚、メディアの皆さん、
地元民がひとりも参加していないダム建設反対運動を先導している運動家諸氏に問いたい。
自分の足で歩き、現地をつぶさに見て歩き、地元の声を謙虚に聞いているのか?と。
問題解決はそこから始まる。
夕闇迫る国道から川原湯温泉街へ移動するため、ふたたび歩きはじめた。
埋蔵文化資料館前を通過し、
栄橋を渡る。
生活道路を歩く。冬枯れの夕景、雪が降れば、工事も出来ない。本格的な冬が工事を妨げる。
静かな静かな里の秋、晩秋、初冬。
有線公衆電話の古びた実物をメモ。
1986年(昭和61年)に立てられた看板に改めて地元の方々の苦労を思い、ため息。
ここは標高586m、本格的な降雪のシーズンも近い。
いよいよ夕暮れ、雲がひなどり(orガメラ)のような形をして北から南へ流れていく。
夜が明けたら、吾妻渓谷、そしてダム建設予定地を歩くことにして、一日目が終った。
つづく。